森慶太のメールマガジン - 森慶太FMO 388 補足


森慶太FMO 388.補足   2020.08.12.

■国政久郎の『自動車運転本』 シーズン5 第114回 なんとか感の話(97)の続き

プジョーの自社製ダンパー写真説明

 「プジョー製ダンパー」といえば「ポペットバルブ」……までは、マニアだったら知ってると思います。ポペットバルブ、日本語だと「キノコ弁」。そのポペットバルブ(全部で4つ)、どこの、あるいはなんのバルブかというと、「圧側行程で作動するピストン部のチェックバルブ」なんです。サスペンションが縮んでダンパーのロッドがシリンダー内へギュイッと入り込んでピストン下室からピストン上室へオイルが移動するときに開いてオイルの通り道になるバルブ。一方通行弁。ということはイットミーンズ「ここでは減衰は出てないですよ」(by プロの人)で、でも「プジョー製ダンパー」(がついてるプジョー車またはシトロエン車)の乗り心地の気持ち良さの決めテのひとつがここ、だったりします。ダンパー内部の部品関係の画像でこういうの、見たことないですよね。こういう機構設計のダンパー、世界中にプジョー製だけです。でした。プジョーのダンパー内製部門は2013年中のどこからへんで閉鎖されたようです(ちなみに、現行プジョー車やシトロエン車の純正ダンパーのサプライヤーはKYBヨーロッパです。

 

 で、画像にご注目。バルブボディとピストンとは、赤い矢印の根っこにあるポペットバルブが赤い矢印の先っちょにある穴を塞ぐように組み合わされます(バルブボディ側にある凸部とピストン側にある凹部を合わせると自動的にそうなるようになってますね)。

 

 ピストン背面側の外周のところに4つ見えてる丸穴はそれぞれポペットバルブに塞がれるわけですが、その穴のサイズ。○の直径が4つどれも同じ……ではないですね。プロの人は「大きさが3種類」といってたので、4つある丸穴のサイズはたぶん大大中小でしょう。でもって、赤矢印の先端にある丸穴は大サイズです。穴がデカいということはポペットバルブがフタしてる面積もデカいということで、これを専門的にいうと「受圧面積が大きい」です。

 

 圧力×面積=受けるチカラで、受圧面積がデカいと、そこのバルブは大きなチカラを受けます。で、すぐにオープン。圧側ストロークの動き始めのいちばん最初にオープンするのが、赤矢印の根っこにあるポペットバルブ、なんですよ(美味いことちゃんとそうなるように当該コイルスプリングのレートやプリロードをアレしてあるんでしょうね、フツーに考えて)。で、アブラをピストン下室からピストン上室へと戻し始める。

 

 でもってその当該ポペットバルブ、どうですか。ほかの3つと較べて、ボディ側のベースというか土台からのキノコの飛び出しシロがちっちゃいです(あるいは、ほかの3箇所と較べて土台というか土手というかが高いです)。これはどういうことかというと、最初にすぐ開くけど、ちょっとストロークしたらすぐドン突きになって止まる、ということです。ストローク量がわずかになるように規制されている。その先もっとグイーッと圧側ストロークが進行していったら、そのときはほかのポペットバルブさんたちも開いてアブラをドバーッと。ピストン下室からピストン上室へと流してあげられます。

 

 圧側ストロークがごく僅かだけ発生して、すぐ反転して伸び側ストロークへ。こういうシーンでは、当該のポペットバルブだけが開いて、閉じます。通常のディスクバルブのタイプだと、ディスクがウニョーッとめくられて全部の穴が一辺にオープンして、こんどは全部がウイーッと閉じられ……になるわけですが、ポペットバルブの場合は、状況によっては、4つあるうちの1個だけ。まず最初の1個だけが開き、圧力の方向が変わったらすぐにパチッと閉じることができて、つまり「閉じ遅れ」がない。閉じ遅れると、その場合は反転した直後の伸び側ストロークの減衰がキレイに出ません。ストロークの切り返しのところの減衰の出かたというか応答のよさが、プジョー製ダンパーの美点のひとつだったりします。

 

 「閉じ遅れ」がダメなら「開き遅れ」もダメで、もっというとだらしなくベロッと開いちゃうの(あるいは開きっぱなし)もダメなんですが、プジョー製ダンパーの圧側チェックバルブはそのへんがすごくよくできる子、ということです。専門的には「作動環境」といいますが、減衰を出す部分がちゃんと仕事ができるようにナイスな環境を整えてくれている。減衰の仕込みの良し悪しと、作動環境の良し悪し。ダンパーの仕上がりの良し悪しを「牛耳ってる」のは、どっちかというとロクヨンで後者、なんだそうです。プロの人によると。作動環境がイイというのは、だからダンパーとして素性がイイ、ということじゃないでしょうか。

 

 もうおわかりでしょうけど、デザイン=機構設計的なことでいうと、プジョー製ダンパーのこの圧側チェックバルブ、素性がいいしポテンシャルも高いです。バルブが4つあって、その4箇所ごとに、穴のサイズ(=受圧面積)と開弁圧(コイルスプリングのプリロード)と開弁後の圧力とバルブのリフト量の関係(コイルスプリングのレート)とリフト量の上限を設定できます……よね。少なくともポテンシャル的には。現実にどんだけバリエーションがあったのかは俺は知りませんが、やろうと思えば、ものすごくキメ細かくチューニングができる、ということです。

 

 なお。プジョー製ダンパーのここらへんの画像というか写真、『モーターファン・イラストレイテッド』のバックナンバーを探すと出てるはずです……が、その写真も被写体はこれです。でした。ブツ的にも説明的にも、ネタ元は結局、プロの人。でもって、ここに関しては「文責:モリケータ」でございます。説明にナンか間違いや不足があったらそれは俺が犯人、ということです(こわいよー)。